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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)435号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人井上吾郎上告趣意について。

憲法第一四條は、すべての国民が人種、信條、性別、社會的身分又は門地等の差異を理由として政治的、經濟的又は社會的關係において法律上の差別的處遇を受けないことを明らかにして、法の下に平等であることを規定したものである。しかるに犯人の所罰は、かかる理由に基く差別的處遇ではなく、特別豫防及び一般豫防の要請に基いて各犯罪各犯人毎に妥當な處置を講ずるのであるから、その處遇の異ることのあるべきは當然である。事実審たる裁判所は、犯人の性格、年齢及び境遇並に犯罪の情状及び犯罪後の情況等を審査してその犯人に適切妥當な刑罰を量定するのであるから、犯情の或る面において他の犯人に類似した犯人であってもこれより重く處罰せられることのあるのは理の當然であり、これを目して憲法第一四條の規定する法の平等の原則に違反するということはできない。されば論旨の理由がないことは明白である。

辯護人大野會之助上告趣意について。

原判決は、被告人の判示第一乃至第四の強盗の犯罪事実を認定する證據として、所論の原審公判廷における被告人の供述及び被告人に對する検察官の聽取書の外、被告人の犯行加擔の情況を供述する共犯者李菓用に對する検察官の聽取書並びに判示第一乃至第四の強盗被害顛末に關する各被害者の始末書その他の證據を引用している。されば原判決は、所論のように被告人の自白を唯一の證據として原判示事実を認定したものではない。又記録によれば、被告人は昭和二二年五月一〇日逮捕され同月一二日勾留されて以来拘禁されているのであるが、所論の検察官の聽取書は昭和二二年五月一九日に作成されたものであるから右の聽取書記載の供述は拘禁と自白の日時の近接からみて、もとより不當に長く拘禁された後の自白でないことは明かである。なお原判決が證據に引用した原審公判廷における被告人の供述は、昭和二三年一月一九日になされたものであって、強盗の犯行を自白したものではなく、單に被告人が犯行の場所の近くまで行ったこと、犯行の場所から被害物品の一部を持ち出したことその他の不利益な事実を認めたものであり、しかも第一審公判廷における全面的自白をひるがえした供述であるのみならず、數名以上の共犯者による集團強盗の四回の犯行に關する自白であるので、これらの状況からみて刑訴應急措置法第一〇條にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」に該當するものではない。それ故、論旨はいずれも理由がない。

よって、刑訴法第四四六條に從い主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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